こすぎのどくしょかんそーぶん

こすぎさん(@kosugi4624)が読んだ本の感想とか書きます

第23回電撃小説大賞受賞作

こんばんは、こすぎです。

 

今年の電撃小説大賞*1の受賞作を一通り読み終わったので、感想ばを。

今回は電撃文庫から出版されたタイトルです。

電撃文庫ライトノベルレーベルの中で最大手と考えられますが、近年は『SAOシリーズ』や『とあるシリーズ』などの人気シリーズは維持していますが、新作がそこまでヒットしない、という印象があります。中でも新人賞受賞作は、他レーベルの新人賞受賞作のほうがおもしろいと感じていた年も多かったです。

しかし、今年の電撃小説大賞受賞作はどれも非常におもしろかったです。受賞作一覧は公式ホームページでチェックしてみてください。

電撃大賞 受賞作品

 

大賞受賞作

『86 ‐エイティシックス‐』

86―エイティシックス― (電撃文庫)

 

 

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あらすじは特設サイトにて公開されているものです。

 

「有人の無人機」が無人兵器と戦い続けるお話。

肌の色、言葉、人種による差別で、白人の共和国人以外の人々は人間ではないもの、人の形をした豚と定義すれば、その人たちへの迫害・虐待は非道ではない=人ではないものをパイロットとして乗せれば、それは「無人機《ドローン》」である、という頭のおかしい発想から生まれたのが「有人の無人機」です。

この「有人の無人機」に乗って無人兵器「レギオン」と戦い続ける「エイティシックス」と呼ばれる人々と、その「エイティシックス」を「人」として扱い、指揮する指揮管制官の少女の戦いと別れの物語。

実は帝国自体は既に滅んでおり(原因は不明。レギオンの暴走か)、帝国の仕掛けた安全装置により、レギオンはしばらくしたら活動を停止すると考えられていた。無人兵器「レギオン」は機体修復や量産自体は機械同士でできるが、戦略的な攻撃は部隊の頭脳となる帝国の指揮官がいないとできず、圧倒的物量にものをいわせた制圧しかできない、とされていたが、実態は……。という流れ。

 

単刀直入に言って、非常におもしろい作品です。

ディストピアな世界が好きというのもあるのですが、「無人兵器」だったり「存在しない86区」だったり男心をくすぐられる単語が多い。敵の名前が「レギオン」なのもいいですね。特撮も好むので「第4章 我が名は〈レギオン〉、数多なれば」の文字列だけでブルッときてしまうものもありました。

 

一応「ボーイ・ミーツ・ガール」な作品だと紹介されているのですが、主人公の男女は「エイティシックスのエース」と「指揮管理官」です。死者のいない、無人の戦場ですので、もちろん「指揮管理官」は戦場には出てきません。安全な共和国の区画内にある施設から指示を出します。対して「エイティシックス」は戦場にいるわけですから、会わないんですよね。通信によるやりとりだけ。ミーツしないじゃない、と。でも、この距離感がいいですね。

対等な人間としてエイティシックスを扱おうとするヒロインと、あくまで無人機のパイロットとしての生き方を貫くエイティシックスたちの距離感が非常にいいですね。歩みよりと拒絶っていうのは本当に好きです。

 

「壁」で外と区切られて、壁の中での幸福を生きる人たちと壁の外で現実と戦う人たちっていうのはここ数年だと「進撃の巨人」だったり「劇場版 PSYCHO-PASS」だったりで人気が出る世界の設定だと思いました。いざ壁を壊されたとき、どうなるのかというのも、ほぼわかりきっていますが、気になってしまうところですね。

 

敵が機械ですので、時間を問わずに攻め入ってきてしまう関係上、本文も戦闘、戦闘、戦闘という感じになっているのですが、その合間合間にあるエイティシックスたちの日常風景もまた作品の魅力だと思います。人ではないもの、として扱われている人たちの、命のやりとりをした後の束の間の休息。とても人間臭くて、全体的に暗い印象を与える世界の中で、あたたかい光をみました。

 

そして中盤に明らかになる主人公の特異能力と、終盤までの怒涛の展開。

ハラハラしながらページを捲ってしまいます。捲る手が止まらないのです。『エイティシックス』の世界にどっぷり浸かってしまう、そんな感覚を覚えます。鮮やかなフラグ回収も素晴らしい。これがここにつながるのか!という展開が3分に1回くらいの感覚でやってきます。

 

そこからのラストシーン。

帯コメントで時雨沢恵一先生*2が「ラストの一文まで、文句なし。」と書かれていますが、本当にその通りだと思います。ラストシーンが蛇足、ご都合主義と言われもしますが、ぼくは必要なシーンだと思いました。

だって、ボーイ・ミーツ・ガールですからね。

 

「映画化してくれ!」と叫びたくなる1冊でした。

1クールアニメよりは劇場でみたいタイプの作品です。『ALL YOU NEED IS KILL』みたいに、ハリウッド映画作ってくれないかなあ、と。SAO*3をハリウッドで作っている場合じゃねえぞアメリカ!!

独特の世界観ながらも、含みももたせつつ1冊でしっかり完結させています。読み応え抜群なので、是非読んでいただきたい1冊です。

 

 

金賞受賞作

『賭博師は祈らない』

賭博師は祈らない (電撃文庫)

“第23回電撃小説大賞《金賞》受賞作品!
心に傷を負った奴隷少女と、孤独な賭博師。
不器用な二人の、痛ましく愛おしい生活。

 十八世紀末、ロンドン。
 賭場での失敗から、手に余る大金を得てしまった若き賭博師ラザルスが、仕方なく購入させられた商品。
 ――それは、奴隷の少女だった。
 喉を焼かれ声を失い、感情を失い、どんな扱いを受けようが決して逆らうことなく、主人の性的な欲求を満たすためだけに調教された少女リーラ。
 そんなリーラを放り出すわけにもいかず、ラザルスは教育を施しながら彼女をメイドとして雇うことに。慣れない触れ合いに戸惑いながらも、二人は次第に想いを通わせていくが……。
 やがて訪れるのは、二人を引き裂く悲劇。そして男は奴隷の少女を護るため、一世一代のギャンブルに挑む。”(公式ホームページのあらすじです)
 
ファンタジー要素一切無しの時代系フィクションです。
賭博師が主人公ということで、ギャンブルの話です。トランプにルーレット、様々なギャンブルが出てきます。時代設定とテーマ設定から著者の趣味が全面に出ていて、非常に好感度が高いです。書きたいものを書いているんだ!というのが思いっきり感じられる文章や世界観っていいですよね。

個人的な好みにもなりますが、今回の電撃小説大賞受賞作で一番完成度が高い小説だと思います。時代系フィクションですが、戦闘描写がほぼなく、物語の大半がひとつの町の中ですすんでいくので、坦々とした印象を受けますが、その中で主人公とヒロインが出会いを通して変わっていく姿がみられ、物語が進んでいく過程をしっかり感じることができます。そして随所に散りばめられた伏線を回収しながらラストの一世一代のギャンブルへと繋がっていく様は本当に見事です。話の落としどころが絶妙なので、さわやかな読了感が残ります。

登場人物のいくつかは、実際に存在していた人がモデルになっているそうで、時代が動いていくことが物語の中で感じることもこの作品の魅力のひとつかと思います。物語の本筋には関係ないといえば関係ないのですが、脇を彩っていくキャラクターたちが、世間の常識を少しずつ変えていっていることが実感できます。賭博・ギャンブルのあり方、そこから派生していく別競技など、こう変わっていくのか、と感心します。

ヒロイン・奴隷少女のリーラちゃんの可愛さもすばらしいです。
褐色・白髪・碧眼と魅力の塊のようなビジュアル。
奴隷として、商品として仕上げられているために壊されてしまった喉、そして感情。言葉をしゃべることもできなければ書くこともできない、完全に都合のいい性的欲求のはけ口として作られてしまった少女が、少しずつ、少しずつ心を取り戻していく。
序盤の暗いイメージがあるから、後々取り戻す笑顔や、口絵のはにかんだ表情が本当に愛おしいです。

歴史系フィクションということで、このお話はフィクションなのですが、実際にどこかで同じような出来事はあったかもしれません。歴史の立会人になれますよ。


銀賞受賞作
『キラプリおじさんと幼女先輩』

キラプリおじさんと幼女先輩 (電撃文庫)


キラプリおじさんと幼女先輩 (電撃文庫)
“第23回電撃小説大賞《銀賞》受賞作品!
女児向けアイドルアーケードゲーム「キラプリ」。
俺が手に入れた“楽園”は、突如現れたクソ生意気な女子小学生によって奪われる!?

 女児向けアイドルアーケードゲーム「キラプリ」に情熱を注ぐ、高校生・黒崎翔吾。親子連れに白い目を向けられながらも、彼が努力の末に勝ち取った地元トップランカーの座は、突如現れた小学生・新島千鶴に奪われてしまう。
「俺の庭を荒らしやがって」
「なにか文句ある?」
 街に一台だけ設置された筐体のプレイ権を賭けて対立する翔吾と千鶴。そんな二人に最大の試練が……!
 クリスマス限定アイテムを巡って巻き起こる、俺と幼女先輩の激レアラブコメ!”(公式ホームページのあらすじです)

個人的に、電撃小説大賞で当たり作になることが多いのは銀賞だと思っていまして、毎年銀賞受賞作が発売されるのを楽しみに待っていたりするのですが、今回もその例に漏れず、非常に面白い作品でした。

今回の電撃小説大賞受賞作の中でも、タイトルからして異質な雰囲気を醸し出している一冊です。
ブコメと紹介されていますが、ラブコメというよりも、熱い青春ストーリーと言った方がいいかと。女児向けアーケードゲームといえど、これはもはやスポーツに近い。
最初はいがみ合う二人ですが、徐々に相手のことを認めたくないながらも認めはじめ、少しずつ打ち解けていき、物語の終盤で一緒に困難な課題をクリアする。そしてラストシーンではお互いの友情を確かめあう、お互いにとってはじめての、某女児向けアーケードゲームでは有名なあの儀式を行う……。
超王道。王道中の王道のスポ根ですよ。この小説は。『ロウきゅーぶ!』を読んだときのような、満足感……。

この手の作品によくある、ゲームに対する偏見ですが、もちろん存在します。主人公は女児向けゲームに熱中する男子高校生。テンプレですが、幼馴染の女の子に「あんたおかしいよ!」と所謂一般常識を叩きつけられてしまいます。それでも、幼女先輩を間に挟むことで、「夢中になれるものにジャンルなんて関係ない!」と主張することができますね。 幼女が女児向けゲームをするのは当たり前ですし。一緒に楽しんでいる姿をみると、とてもやめろとは言えない。
 
作品としては、今回の受賞作の中で一番粗いかな、という印象を受けました。回収していない伏線はかなりありますので、受賞作たちの中では一番続編を作りやすそうです。次巻以降の展開に期待ですね。
 
著者さんの出身が山口県のらしく、山口県と福岡県が舞台になっています。ぼくは高校の修学旅行で行った萩くらいしかわからないので、イメージはあまりつかめなかったのですが、魔境・小倉の描写で笑ってしまいました。福岡県、こわすぎて行きたくないですねぇ……。鷹もいますし。
 
 
選考委員奨励賞受賞
『オリンポスの郵便ポスト』
 

オリンポスの郵便ポスト (電撃文庫)

“第23回電撃小説大賞《選考委員奨励賞》受賞作品!
黄昏の火星で、配達員の少女と己の死に場所を探すアンドロイドが往く、
8,635kmの旅路。

 火星へ人類が本格的な入植を始めてから二百年。この星でいつからか言い伝えられている、ある都市伝説があった。
 オリンポスの郵便ポスト。太陽系最大の火山、オリンポス山の天辺にあるというその郵便ポストに投函された手紙は、神様がどこへでも、誰にでも届けてくれるという。??そう、たとえ天国へでも。
 度重なる災害と内戦によって都市が寸断され、赤土に覆われたこの星で長距離郵便配達員として働く少女・エリスは、機械の身体を持つ改造人類・クロをオリンポスの郵便ポストまで届ける仕事を依頼される。火星で最も天国に近い場所と呼ばれるその地を目指し、8,635kmに及ぶ二人の長い旅路が始まる――。”(公式ホームページのあらすじです)
 
設定だけ見るとSFな香りがしますが、実態はとても人間臭いファンタジー。
目的地が決まっている旅というのは、明確な終着点があるので、その旅が魅力的であればあるほど、少しでも長くその旅を見続けていたく、終わりが近づくとページを捲ることすら辛くなってきます。『狼と香辛料』のような美しい旅模様でした。
 
少女と改造人間の、改造人間といってももうほぼロボットですが、旅はお互いのことを何もしらないところからスタートして、少しずつ打ち溶け合っていく。ここまで、メインキャラ2人が愛おしく感じる作品は他にないと思います。8,635kmという距離を、2人で旅して、不器用ながらも交流して、事件に巻き込まれて、それでもオリンポスの郵便ポストを目指して進んでいく。舞台はテラフォーミングに失敗した火星ですので、火星を開発していた頃の出来事と、2人の過去が少しずつわかっていき、物語の謎が明かされていく。何ヶ月にも及ぶ旅で、何回も場面がかわるのですが、そのひとつひとつで立てられたフラグを、後半きれいに回収していきます。読み応えバツグンです。
 
お互いに、「配達員」と「依頼主」という立場に頑なに拘る姿は、とても微笑ましい。色々と思うところはあるだろうに、立場に拘って素直に本音を言えない様は現実でもよくあることだと思いますが、これが逆にリアルでいいです。最初にも書きましたが、SFな世界でも、とても人間臭い関係なのです。ボーイ・ミーツ・ガールが各々の成長につながる物語は、とても好きです。
 
本当に読み心地の良い旅でした。この2人の旅の続きをもう見ることができないのがとても寂しいです。ずっとずっと、旅を見続けていたかったですし、一緒に旅をしたかったです。今回の受賞作で一番読み心地の良かった作品でした。
 
 
4作だらだらと感想を書かせていただきましたが、今回の受賞作はみんな異なるジャンルの傑作だったと思います。本当にどの作品も面白かったですし、是非読んでいただきたいライトノベルです。
共通していたのは、ボーイ・ミーツ・ガールですね。
『エイティシックス』=ボーイ・ミーツ・ガール(会わない)
『賭博師は祈らない』=ノーい・ミーツ・ガール(購入者と商品)
『キラプリおじさんと幼女先輩』(1つのゲームを巡る競争者、ライバル)
『オリンポスの郵便ポスト』(配達員と依頼主)
と、各作品2人の関係は違いますが、どれも魅力的でした。
 
異世界転生モノの流行から、現在は日常系の、著者のスキルを活かしたラノベ作家ものだったりの実際の職業モノへと流行は変わってきた気がします。どっちのものでも、流行ジャンルはだいたいハーレムものが多いです。異世界でハーレムしたかと思えば現実でハーレムする。この、ハーレムっていう要素はライトノベルだけではなく、漫画でもやっぱり人気が出る傾向があると思います。
しかし、今回の受賞作は、ハーレム要素を感じません。むしろ、『キラプリおじさん』以外は主要キャラクターの中の女性キャラクターが少ないです。そして、ハーレムに一番近い『キラプリおじさん』も、内容は超王道スポ根。これは少し面白い事例だと思います。
 
ライトノベルの中でも最大レーベルと言われる電撃文庫の新人賞で、今までの流行に正面からぶつかっていくような内容の作品が賞をとり、その全てがおもしろい。
低迷しているといわれているライトノベルですが、この4作品から、ライトノベルの新時代の到来を感じずにはいられません。
 
 

 

 

 

 

*1:アスキーメディアワークスさんが毎年行っている国内最大規模の新人賞。大賞及び優秀賞受賞作家は電撃文庫メディアワークス文庫でデビューできる

*2:第23回電撃小説大賞最終選考委員。『キノの旅』などの人気ノベルの著者

*3:ソードアート・オンライン』。電撃文庫刊行でシリーズ累計1900万部の超ヒット作。現在劇場版アニメが好評放映中。そうやってユナまでたぶらかしたんですか?